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2025.10.13
最終更新日: 2025.10.09
  • 技術コラム

ウォータージェットカッタで葛飾北斎「冨嶽三十六景《神奈川沖浪裏》」の制作に挑む!

ーテレビ愛知「工場へ行こうEX 工作キカイ大百科」で当社が紹介されましたー

 

テレビ愛知の情報・バラエティー番組で、製造工場などに潜入し、各現場の技術や秘密に迫る「工場へ行こう」の特別番組「工場へ行こうEX」<工作キカイ大百科>が2025年10月13日(月)12:00~12:30に放映され、当社が取り上げられました。この番組の企画で、当社は、葛飾北斎の傑作「冨嶽三十六景 《神奈川沖浪裏》」の制作にウォータージェットカッタで挑みました。複雑で躍動感のある波の表現に苦戦しましたが、1カ月半余りかけ、無事ウォータージェットカッタを使って作品を完成することができました。
ここでは、制作の裏側をお伝えします。

■ 目次 ■

①「失敗するかも!? 番組から無理難題の依頼」
依頼を受けるまで編

②「どう再現できるか 試行錯誤の日々」
制作過程編

③「いよいよ迎えた撮影当日 完成をお披露目」
撮影・完成編

①「失敗するかも!? 番組から無理難題の依頼」

「ウォータージェットカッタで葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』をつくってもらえませんか?」。
「工場へ行こう」の制作会社から、こんな番組企画の打診を受けたのは、2025年7月でした。10月に名古屋市で開催される工作機械の大型展示会「メカトロテック ジャパン2025」を前に、工作機械の“すごさ”を紹介する番組で、撮影時期は8~9月上旬、放映予定時期は10月とのこと。
神奈川沖浪裏といえば、北斎が富士山の見える景観を描いた名作集「冨嶽三十六景」の1つで、しぶきを巻き上げてせり上がる大波とうねりに、小舟が飲み込まれそうになっている情景を描いた、誰もが知るあの傑作です。
ウォータージェットで普段切断するのは、規則的な線や形で、手書きのような有機的な線を切断することは想定されていません。この無理難題の依頼を受けられるのか…。番組では、技術部長が「面白そうですね。やってみましょう」と即OKしていますが、実は当初、担当の技術者たちには「ハードルが高すぎる」と渋られました。依頼を受けるか検討する初回の打ち合わせでは「やってみないとできるかわからない」「予想以上に時間がかかるかも」「こんな複雑な線を再現できるのか」と失敗を恐れる声も。それでも、かの名作とウォータージェットカッタが、広く言えば「水」を題材に使っている点で親和性があって面白いこと、浮世絵師が活躍した時代を描いたNHKの大河ドラマが人気を集めていること、完成して展示会などで飾れば多くの人の目を引くこと、などから、一か八かトライすることになりました。

②「どう再現できるか 試行錯誤の日々」

初回のその打ち合わせでは、制作に向けたアイデアやヒントとして、こんな声が上がりました。
・全体を一筆書きで表現することは不可能
・ウォータージェット加工の特長として、金属、樹脂、木などさまざまな素材の切断ができることを表現したい
・色違いの波の部分、富士山、小舟などのパーツに分け、いくつかの層に分けて重層的に組み合わせる
・層を複数重ねるのであれば、何層にする?
・切断用のプログラムを作成するための画像データは、どう作成したらよいか(パーツをどう分割するか、複雑な線をどうデータに落とし込むか)
・原画の躍動感、迫力、印象をどれだけ残せるのか?

この日から、制作に向けた準備が始まりました。
切断用のプログラムを作るための画像データの作成は、広報係が担当。ウォータージェットカッタの切断作業は、普段はお客様向けのテスト切断を担当している「技法提案」の技術者が担当することに。神奈川沖浪裏の画像とにらめっこしながら、担当者で何度も検討を重ね、制作方針を決めていきました。

ところで、今回切断作業を担当した技術部門を当社では「技法提案」と呼んでいます。ウォータージェット加工という特殊な加工方法のノウハウをもったスペシャリストで、お客様がどんな加工をしたいか、ヒアリングやテストを行い、提案しているスギノマシンならではの部門です。

そしてお盆休み直前、ようやく完成に向けた道筋が見えてきました。
導き出したのが…
・絵全体をパーツ分けして切断し、重層的、立体的に組み合わせる
・パーツの分割の仕方は、背景(1パーツとしてパネルに印刷)、ベースの青い波(1パーツ)、水色の波(3パーツ)、白波(19パーツ)、小舟(6パーツ)の計30パーツに
・白波はアルミ板、青と水色の波は塩化ビニル、小舟は木材をそれぞれ材料に使う
・最後は、接着剤などでくっつけて仕上げる

お盆休み明けには、切断に向けて画像データの細かい修正などを繰り返し、材料も調達。9月上旬の撮影本番を前に、業務の合間を縫って8月下旬、いよいよ一部の材料の切断をスタートしました。
まずは白波用のアルミ板から。切断する線の画像データを読み込ませたウォータージェットカッタに、材料を固定し、ボタンを押して切断が始まります。
「うまく切れているか…?」。
装置が動く「ウィーン」という大きな音が響き渡る中、技術者は固唾をのんで、静かに見守ります。

切断が終わり、技術者がアルミ板を取り出して切れ具合を確認し、大きくうなずきました。どうやらうまくいったようです。
翌日には、水色と青の塩化ビニルの板に、他の波のパーツを切断してみました。
塩化ビニルは軟らかくしなりやすいので、固定しても切断中にぶれやすく、硬いアルミ板より切りづらいです。何度か作業を中断しながら調整し、無事に切断終了。さすがはどんな素材も切断できるウォータージェットカッタ。イメージ通りのラインが描けていたようで、技術者も納得の表情です。

撮影本番1週間ほど前には、試しに切断したパーツを組み合わせてみました。
なんだかパズルのよう…。

そして撮影本番の日を迎えます…!

③「いよいよ迎えた撮影当日 完成をお披露目」

撮影当日は、白波のアルミ板の一部と木の小舟を切断します。
まずは小舟から。制作クルーは照明器具を複数使って、レンズや構図も換えながら、手際よく撮影を進めます。さすがはプロの本格的な撮影です。制作クルーのカメラマンが細部まできれいに映るよう、こだわって撮影してくださいました。
白波のパーツの切断が始まると、様子を見守ろうと社員が続々と集まってきました。
ウォータージェットカッタがアルミ板に四方八方にはじけるような複雑な波のラインを描いていきます。
制作クルーのディレクターも、興味深そうにその様子に見入っていました。

全ての切断が無事終了し、次は組み立て。
1つずつ、配置する場所を確認しながら、慎重に組み立てていきます。

そしてついにカメラに向けて完成品をお披露目する時が来ました。
技術部長が作品にかけられた黒い布をめくると…。

「おおー!」。社員から歓声と拍手が湧きました。
完成品はご覧の通り。

切断面もきれいに仕上がりました。

逆巻く大波と飲み込まれそうな小舟、静かにたたずむ富士山をパーツ分けし、立体的に組み立て、工夫とアイデアを詰め込むことで、無事に再現することができました。
波の線が少し丸みを帯びながら、踊り出しているような斬新な作風になりました。
制作した社員の笑顔には、これまでの苦労と達成感、喜びがにじんでいました。

さまざまなハードルを乗り越えて、作品は無事に完成し、テレビ放映を通じて、多くの方にお披露目することができました。
当社にとっても、ウォータージェットカッタの新しい価値を示す貴重な経験になりました。

作品は、10月22日(水)~25日(土)にポートメッセなごやで開催される「メカトロテックジャパン2025」にて、展示します。
ぜひ、会場に足を運び、作品を直接ご覧ください。

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