機能性材料セルロースナノファイバー(CNF)の特徴・用途

セルロースナノファイバー(CNF)とは
セルロースナノファイバー(CNF)は、植物由来のセルロースを原料としたナノファイバー素材です。
CNFは化学的に未変性で水中解繊処理により調整される「機械解繊CNF」と化学前処理によりセルロースのミクロフィブリル表面にマイナスの荷電基を導入した後、水中解繊処理によって調整される「化学処理CNF」に大別されます。
機械解繊CNFは繊維幅が10~50nmと幅があり、枝分かれ構造やネットワーク構造を含む不均一な形状をとります。未解繊繊維を含むため分散液は半透明か白色不透明ですが、高濃度化や繊維長の制御が可能であり、用途に合った濃度と繊維長を選択できることが強みです。
化学処理CNFは十分な解繊処理を行うことで、繊維幅3nmの均一な形状が得られるため、分散液の透明度が高いです。また親水性が高く、水系での分散性に優れます。一方で、高濃度化や繊維長制御は難しく、化学処理にコストがかかるため、比較的高価になります。
機械解繊CNFと化学処理CNFはその特徴が異なり、用途に合った使い分けがされています。
CNFは、その3次元のナノネットワーク構造、高アスペクト比、高強度なセルロース鎖、石英ガラス並みに小さい線熱膨張など、優れた特徴をもち、多種多様な業界での応用が検討されています。
また、総称してナノセルロースと呼ばれることがありますが、ナノセルロースは繊維幅がナノサイズ(100nm以下)のセルロースと定義され、その中には、セルロースナノファイバー(CNF)とセルロースナノクリスタル(CNC)の2種類が含まれます。スギノマシンの「BiNFi-s」はCNFに分類されます。
セルロースナノファイバー(CNF)の特徴
セルロースとCNFの特徴が入り混ざって紹介されていることが多いため、ここではセルロースとCNFの特徴を分けて示します。
セルロースの特徴
- 植物由来のサステナブルな材料
- 比強度(密度あたりの引張強さ)が高い
- 密度1.5g/cm3
- 化学的安定性が高い
- 安全性が高い(医薬品の賦形剤、食品添加物として使用)
CNFの特徴
- 極細繊維(繊維幅3~100nm、繊維長0.5~数百μm)
- 3次元ネットワーク構造をとる
- 微粒子の分散安定、ケーキング防止効果がある
- 成膜、バインダー特性を持つ
- 水に溶解せず分散し、さっぱりとした触感を与える
- 繊維長により性質が異なる
- 低熱膨張
*CNFの特徴には上記セルロースの特徴も含まれます。

セルロースナノファイバー(CNF)の製造方法
スギノマシンでは、国内工場で、自社製の製造設備を用いて、水とセルロースのみで機械的に解繊するウォータージェット製法で生産しています。
クリーンルーム内で製造しているため、化粧品などへも安心してお使い頂けます。また大量生産が可能な工法のため、供給能力は高く、産業レベルでのCNFの製造が可能です。
ウォータージェット製法の特徴を以下にまとめます。
- 連続処理による大量生産が可能です。
- 水と原料だけで製造するため、人と環境に優しく、不純物(コンタミネーション)の混入が極めて少ないです。
- 過度な粉砕を抑制できます。
- 高濃度(高粘度)や、長繊維の処理が可能です。
- 圧力や回数を制御できるため、アスペクト比など、物性の制御が可能です。
スギノマシンのCNF「BiNFi-s(ビンフィス)シリーズ」の特徴
スギノマシンでは、産業機械メーカーとしての強みを活かし、CNFをはじめとするナノファイバー素材の製品開発と販売を行っています。
「BiNFi-s(ビンフィス)」は、独自のウォータージェット法(WJ法)で製造した機械解繊CNFです。セルロース、キチン、キトサン、シルクなどの原料を水に分散させ、最高245MPaに加圧し、噴射します。このマッハ2のウォータージェット同士を衝突させることで、バイオマス原料をほぐし、ナノファイバーを製造します。
BiNFi-sは繊維径や繊維長、濃度によって特徴やハンドリング性が異なります。そのため、用途や目的に適したナノファイバーを選択できます。BiNFi-sスラリータイプでは、2、5、10wt%の3種類の異なる濃度と、極短繊維から極長繊維までの5種類の異なる繊維長のタイプを取り揃えています。

機械解繊方式では最小クラスの繊維径
標準繊維長(WFo)を走査型プローブ顕微鏡(SPM)により解析した結果、視野内に観察されるナノファイバーの80%以上が繊維径10nm以下でした。BiNFi-sは、機械解繊方式の中で最小クラスの繊維径です。

繊維長による引張強度の違い
BiNFi-sに圧力をかけながら乾燥させることでフィルムが作製できます。繊維長を変えて作製したフィルムについて、引張試験を行うと、最大で200MPaを超える高強度フィルムが得られます。
繊維長が長いほど繊維同士の接点が多く、その応力やひずみは大きくなり、フィルム強度は高くなります。また、樹脂などの補強材として利用する場合も、繊維長が長いほど強度の向上が期待できます。

BiNFi-sの粘度特性
BiNFi-sは、せん断速度の増加に伴い粘度が低下する擬塑性流動体です。静置時は高粘度でありながら、分散液に力を加えた時には急激に粘度が低下します。
このため高粘度のゲル状にも関わらず液体のようにスプレー噴霧できるというユニークな特性をもちます。増粘性多糖類に見られるような曵糸性はなく、増粘剤として使用した時には、べたつきが無くさっぱりとした触感が得られます。また、原料種や繊維長の違いにより粘度が異なるため、目的にあったナノファイバーを選択できます。

CNF乾燥粉末
水を添加することができない熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂へCNFを添加するために、乾燥粉末化した「BiNFi-sドライパウダー(BFDP)」をラインアップしています。樹脂への添加時には、せん断力を加えてほぐすことにより、ナノファイバーを再分散させます。
応用例として、発泡樹脂への添加では、発泡径の均質化と強度アップ効果が得られます。
また、エポキシ樹脂では複合材料のマトリックスに使用することで、曲げ強度や耐衝撃性を向上させます。最近では樹脂繊維の補強材やCNT(カーボンナノチューブ)の分散剤としても活用が検討されています。

セルロースナノファイバー(CNF)の用途・応用
CNFはその特徴を活かして、様々な用途への導入が進んでいます。水系用途では研磨剤やコーティング剤の分散安定剤、塗料のレベリング剤、各種セラミックスの結合用バインダー剤、シート成形の基材、ゴム添加剤、化粧品向け添加剤などが挙げられます。また、乾燥粉末の用途としては、発泡樹脂の補強剤、エポキシ樹脂の添加剤(複合材料の強度向上)、樹脂繊維の補強剤、カーボンナノチューブの分散剤などが挙げられます。
分散安定性と分散剤への応用
CNFは水中で三次元ネットワーク構造を形成し、粒子を分散安定化できます。従来の増粘多糖類や高分子添加剤による分散安定化とは異なり、流動性の高い分散液が作製できます。
具体例として、無機顔料のケーキング防止効果と粒子分散の事例を示します。BiNFi-sは終濃度で0.1wt%の少量添加で、時間経過による強固なケーキングの形成を防止します。また0.5wt%の添加で、食品や樹脂のような軽いものから、撥水性で水に馴染まない酸化チタン(粒子径0.05 μm程度、比重4.2)、比重の大きいダイヤモンドパウダー(粒子径8 μm程度、比重3.19)、パール顔料(粒子径15 μm程度、比重3.0)などを均一に分散維持できます。

バインダー剤としての応用
セラミックススラリー中のバインダーとしてCNFを添加することで、バインダーの添加量を低減しながら、割れのないグリーンシートを成形できます。
高分子バインダー(PVA)の添加量を減らした場合、BiNFi-s未添加では均一なシートが作製できないのに対して、固形分濃度は同量で、BiNFi-sとPVAを併用することで平滑なシートが作製できます。高分子バインダーを単独で使用するよりも、1/10程度のバインダー添加量でシート作製が可能となり、焼成時に発生する有害ガスや臭気を低減します。その他、触媒の製造、石灰などの吸着物質の成形などでバインダーとして使用されています。

CNFによる水系樹脂の補強効果
PVA(ポリビニルアルコール)などの水溶性樹脂、アクリルやポリウレタンなどの水系エマルジョンに添加複合化することで、乾燥成形させたシートの強度を高めることができます。PVAの例では、BiNFi-sを10wt%添加することで最大応力が約2.7倍まで向上しています。またCNFを高分散させることで、シートの柔軟性や透明性を維持しつつ補強することができます。アクリル樹脂やウレタン樹脂では、CNFの少量添加により、乾燥時の割れを防止するレベリング性が向上します。


炭素繊維強化プラスチック(CFRP)へのCNF添加効果
CFRPにCNFを添加することで疲労寿命が向上します。CFRPの母材となるエポキシ樹脂に、CNFを終濃度で0.3wt%添加することで、繰り返し疲労寿命が100倍以上に向上します。この効果は繊維長の長いCNFの方が高く、長繊維のCNFを上手く使うことで製品寿命の向上が期待できます。

当社では、CNF添加一方向材CFRPプリプレグ(中間材)も開発しました。一方向材CFRPにCNFを加えた時の曲げ試験、アイゾッド衝撃試験の結果を下記に示します。曲げ強度で約10%向上、アイゾッド衝撃強度は約20 %向上がみられます。曲げ強度や耐衝撃性を向上することで、使用する炭素繊維の積層枚数を削減できるため、部材の軽量化に繋がります。

ゴムへのCNF添加
天然ゴムに極長繊維(IMa)のCNFを少量添加することで、初期モジュラスが大幅に増加します。また極短繊維(FMa)のCNFを少量添加すると、破断強度・伸びを向上させることができます。
BiNFi-sは水分散体であるため、液状の天然ゴム(NR)ラテックスに分散、乾燥化させることで、CNFを高分散させたまま固形ゴムを得ることができます。得られた固形ゴムを加硫、成形したNR/BiNFi-s複合体の物性を比較したところ、BiNFi-s添加品はわずか5phrで大きな添加効果が得られます。
上記の通り、極長繊維(IMa)の添加では初期モジュラスが、極短繊維(FMa)添加では破断強度・伸びが向上します。このため極長繊維と極短繊維の両方を同時に添加することで、中間の物性制御か可能です。また、カーボンブラック(CB)40phr添加品と比較すると、BiNFi-s添加品では5phrと低濃度添加でありながら、初期弾性率を同等まで高めることができます。さらにはCBの比重が2.0前後に対し、セルロースの比重は1.5であるため、大幅な軽量化も期待できます。

オイルゲル化剤としての活用
BiNFi-sと多価アルコールのグリセリンを併用することで、様々なオイルのゲル化が可能です。
BiNFi-sを使用したゲル化のプロセスでは加熱工程を必要とせず、常温でゲルを作製できることから、熱に弱い成分の利用も可能です。
また完全に固化したゲルではなく、流動性のあるゲルが調整できることも特徴です。

活用業界
このように、CNFは様々な業界で活用が期待されています。
化学 ・・・・・・・・樹脂補強材、ゴム補強材、透明材料基材 など
電子・電機 ・・・電極材料、導電補助材 など
繊維 ・・・・・・・・補強材、バインダー材、吸着材、フィルター など
化粧品 ・・・・・・ベース剤、保湿剤、日焼け止め など
食品 ・・・・・・・・機能性成分、増粘剤、保湿・保形剤 など
医薬品 ・・・・・・生体適合材料、フィルム剤、止血剤 など
建築材料 ・・・・建材・内装材の多機能化 など
顔料 ・・・・・・・・トナー、液晶カラーフィルター、プリンター用インク、各種塗料 など
購入方法
BiNFi-sシリーズは、お求めやすいトライアルセットをはじめ、多種類の商品ラインアップをご用意しています。
また、受託加工による大量生産も承っております。
まずはお気軽にお問い合わせください。
※一部商品は、「ペーパーモール 」でもお取り扱いしております。
さらに、多様なナノファイバー素材を開発・製造・販売
スギノマシンは、セルロースナノファイバーのほかに、キチン・キトサンを原料としたキチンナノファイバー、キトサンナノファイバーや、シルクを原料としたシルクナノファイバーなどを、用途にあわせてご提供しています。